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■相続

2021/04/09

相続人がいない場合の相続

近年、生涯独り身や熟年離婚などが原因で「孤独死」や「ぼっち死」といった言葉が注目されるようになりました。このようなケースでは、財産の相続人となる親族が1人もいない状況になることもあります。
亡くなった方に相続人が1人もいない状況は「相続人不存在」と呼ばれ、家庭裁判所での手続きが必要になります。

では、相続人不存在の場合、被相続人(亡くなった方)の財産はどうなるのでしょうか?

今回は、被相続人に相続人がいない場合の手続きについてご説明します。


相続人不存在となるケース

相続人不存在となるケースは、相続人となり得る親族が1人もいない場合の他に、相続放棄になどによるものもあります。

ケース① 家族構成による相続人不存在
被相続人の財産を相続できる人の範囲は、民法によって定められています。このように民法で定められた相続人のことを「法定相続人」と言います。
法定相続人には大きく分けて「配偶者」と「血族相続人」の2つがあります。被相続人の配偶者は常に法定相続人になることができますが、血族相続人には優先順位があり、上の順位の人がいる場合は下の順位の人が相続人になることができません。
血族相続人の優先順位は以下の通りです。

【血族相続人の優先順位】
第1順位:子
第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
第3順位:兄弟姉妹

被相続人に第1順位である子がいればその子が、子がいない場合は第2順位の父母・祖父母が法定相続人となります。子も父母・祖父母もいない場合は、第3順位の兄弟姉妹が法定相続人になります。
したがって、相続人不存在となるケースは、被相続人に配偶者、子、兄弟姉妹がおらず、父母や祖父母がすでに亡くなっている場合です。
なお、子や兄弟姉妹が既に亡くなっている場合でも、孫や甥・姪がいればその人が代わりに相続人となるため(代襲相続)、相続人不存在にはなりません。

ケース② 相続放棄などによる相続人不存在
被相続人に法定相続人がいたとしても、相続人不存在となるケースがあります。
法定相続人だった人が法定相続人ではなくなるケースは、「相続放棄」、「相続欠格」、「相続廃除」の3つです。

相続放棄とは、相続権を自ら放棄することで被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない方法です。特に、被相続人に財産がほとんどなく借金が多い場合などに利用されます。
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったとみなされるため、相続放棄人に子供がいたとしても、代襲相続することができません。したがって、相続が開始時の法定相続人が全員相続放棄をすると、財産を相続できる人がいなくなり、相続人不存在となります。

相続欠格とは、相続財産を多く受け取るために不正行為をした人の相続権を剥奪する制度です。相続欠格には特別な手続きが必要なく、相続欠格事由1つでも該当すれば、当然に相続権が剥奪されることになります。

相続廃除とは、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えた人の相続権を剥奪する制度です。相続廃除は相続欠格とは異なり、被相続人が生前に家庭裁判所に廃除の請求をするか、遺言に廃除の記載をして行います。

なお、相続欠格人や相続廃除人は相続人ではなくなりますが、代襲相続をすることができます。


相続人不存在の場合の手続き

相続人不存在の場合は、以下の手続きを行います。

手続き① 家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる
法定相続人がいない場合は、「相続財産管理人」を選任して財産を管理してもらいます。相続財産管理人の選任は、利害関係者や検察官が家庭裁判所に申し立てをして行います。
利害関係者とは、以下に該当する人です。

【利害関係者】
・被相続人にお金や不動産などを貸している人
・遺言によって財産を受け取ることができる人
・特別縁故者

相続財産管理人の選任の申立先は、被相続人が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所です。申立てには被相続人の戸籍謄本や住民除票などが必要になりますが、被相続人の財産状況や申立人によって必要書類が異なりますので、あらかじめ申立先の家庭裁判所にお問い合わせください。

手続き② 相続財産管理人選任の公告
家庭裁判所は相続財産管理人を選任したら、その旨を知らせるために2ヶ月間の公告を行います。
この公告は、相続財産管理人を公示するだけでなく、相続人がいないかを捜索する意味も持っています。

手続き③ 債権者と受遺者に対する請求申出の公告
相続財産管理人の公告期間に相続人が現れなかったら、次に2ヶ月以上の期間を定めて、債権者と受遺者に対する請求申出の公告を行います。
もし、被相続人にお金を貸していた人や、遺言によって財産を贈与された人がいれば、相続財産からその人に対して支払いがされます。

手続き④ 相続人捜索の公告
次に、家庭裁判所は6ヶ月以上の期間を定めて相続人捜索の公告を行います。この公告で相続人が現れなかった場合は、相続人不存在が確定します。

手続き⑤ 特別縁故者への財産分与の申立、分与の審判
相続人不存在が確定したら、特別縁故者は家庭裁判所に対して財産の分与を申し立てることができます。特別縁故者とは、被相続人と特別な関係に合った人のことを言います。
特別縁故者に該当する方の要件は以下の通りです。

【特別縁故者の要件】
・被相続人と生計を同じくしていた人
・被相続人の療養看護に努めた人
・上記の2つと同じくらい密接で、特別の縁故があった人

家庭裁判所は、財産分与の申し立てをされたら、被相続人と特別縁故者との関係など一切の事情を考慮し財産分与の審判をします。

手続き⑥ 特別縁故者に対する分与財産の引渡し
特別縁故者への財産分与が確定すると、相続財産管理人は特別縁故者に対して財産を引き渡します。

手続き⑦ 余った財産の国庫への引継ぎ
債権者や受遺者への支払い、特別縁故者への財産分与をしてもなお相続財産が残っている場合は、相続財産管理人が国庫に納めます。

手続き⑧ 管理事務終了
これで、相続財産管理人の事務は終了です。
相続財産管理人は管理終了報告書を作成し、家庭裁判所に提出します。

不動産の共有者に相続人がいない場合

被相続人が、法定相続人以外の第三者と家や土地を共有しているケースもあります。
このようなケースにおいて、被相続人が死亡し被相続人に相続人がいない場合、共有分はどうなるのでしょうか。

基本的には、これまで説明してきた通りに相続人不存在の手続きを行い、債権者や受贈者、特別縁故者に財産が与えられます。それでもなお財産が余り、その中に共有財産がある場合は、その共有財産は他の共有者に帰属されます。

相続人がいない場合の対策

これまでお伝えしてきたように、相続人がいない場合の手続きは手間がかかるうえに、相続財産は最終的に国庫に帰属してしまいます。
もし、法定相続人ではないが財産を与えたい特定の人がいる場合は「遺言書」を残すことをおすすめします。
遺言は法定相続よりも優先するため、遺言書を作成することでほぼ確実に希望の相手に財産を与えることができます。
ただし、遺言書を作成する際は、その内容に注意しましょう。遺言には、与える財産の割合を定める「包括遺贈」と、与える財産自体を指定する「特定遺贈」の2つがあります。
例えば、「私の所有する財産の2分の1を〇〇に遺贈する」など割合で示されているのが包括遺贈、「私の所有する不動産を〇〇に遺贈する」など財産が指定されているのが特定遺贈です。
包括遺贈の場合は、遺言で財産の記載漏れをする心配がありませんが、特定遺贈の場合は遺言に記載されていない財産があれば、それに対して相続財産管理人を指定しなければなりません。
そのため、遺言で対策をする際は包括遺贈を活用するようにしましょう。

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