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■遺産

2019/04/10

遺産の調査について(預金取引経過の開示、貸金庫)

相続人同士で遺産分割を行う際、被相続人(亡くなった方)の持っていた財産について、場所や金額などの詳細な情報が必要となります。そのため、相続が始まったらすぐに遺産の調査を行うことになりますが、遺産には様々な種類があり、さらに遺産ごとの手続きも異なるため、非常に時間と手間がかかってしまいます。スムーズな遺産分割を実現するためには、あらかじめ遺産調査に関する知識を身につけておくことが大切です。

今回は、遺産の中でも主に預金取引経過の開示と貸金庫の調査について、詳しくご説明していきます。


預金取引経過の開示

例えば、父が亡くなり、相続人が長男と次男の2人のみのケースで、父の財産は長男が管理しているとします。
長男は、父親はA銀行とB信用金庫の2つの口座を持っていると主張していました。しかし、次男の記憶では、父親はC銀行とも取引があったはずです。
長男が調査に協力してくれない場合は、他の相続人の協力なしに単独でC銀行に開示請求することはできるのでしょうか?

従来の金融機関の対応

従来、金融機関では、被相続人名義の預金口座について相続人から問い合わせがあった場合は、以下のような対応をとっていました。

まず、預金の有無や残高については、請求者が相続人であることが確認できれば、単独でも情報を開示していました。
しかし、預金口座の取引経過に関しては、相続人全員での請求があれば情報を開示していましたが、単独や相続人の一部からの請求の場合は開示していませんでした。

そのため、相続人の中に1人でも預金口座の取引経過の開示請求に非協力的な人がいる場合は取引経過の開示を請求できず、遺産分割やその他相続手続きが進まないという問題がありました。

預金取引経過の開示請求における判例

この問題について、平成21年1月22日に最高裁が次のような判例を下しました。

「預金者が死亡した場合、その共同相続人の1人は預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができるというべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。」

つまり、預金者の共同相続人の1人であれば、他の共同相続人の同意がない場合でも、被相続人の預金取引経過の開示請求を単独で行うことができると示しています。

したがって、先ほどの例でいうと、長男が預金取引経過の開示請求に非協力的であっても、次男が単独で預金取引経過の開示請求を行うことができるということになります。

預金取引経過の開示請求の方法

預金取引経過の開示請求には、次のものが必要になります。

・開示請求者の印鑑
・本人確認書類(印鑑登録証明書、健康保険証、運転免許証、パスポートなど)
・任意代理人の場合は、委任状と印鑑登録証明書など
・成年後見人の場合は、成年後見に関する登記事項証明書など

上記以外にも、各銀行によって必要になる書類が異なります。
あらかじめ手続きをする銀行へ問い合わせをして、必要書類をご確認ください。

貸金庫の調査

貸金庫とは、銀行などに備え付けられている金庫を貸し出すサービスのことをいいます。金庫を借りることで、その中に大事なものを保管することができます。
被相続人が亡くなって相続が開始すると、被相続人が借りていた貸金庫の契約上の地位と、その中の財産も相続の対象となります。また、貸金庫の性格上、遺言書や不動産の権利書などの大切な財産が入っている可能性が高いため、できるだけ早く貸金庫の有無やその中にある財産を調査しなければなりません。

貸金庫の有無を確認する方法

被相続人が生前に遺族に貸金庫の存在を伝えているか、遺言に貸金庫に関する記載があれば良いのですが、誰にも伝えないまま亡くなってしまった場合は、どのように貸金庫の有無を確認すれば良いのでしょうか?

貸金庫の有無は、「貸金庫の使用料」によって確認します。
具体的には、被相続人の口座から他の口座に使用料が引き落とされていないかを確認しましょう。「使用料が落ちている口座=貸金庫のある銀行」ということになります。
被相続人の通帳やキャッシュカードが見当たらない場合は、銀行からの通知がされることがあります。貸金庫の契約がある場合は、使用料の口座振替通知や貸金庫の契約更新通知が銀行から届きますので、郵便物などを十分に確認しましょう。

貸金庫を開ける方法

原則として、貸金庫は契約した本人のみ開けることができます。そのため、契約者である被相続人が亡くなった場合は、貸金庫を開けることができなくなってしまうのです。

被相続人が亡くなってから貸金庫を開けるためには、大前提として「相続人全員の同意」が必要になります。それに加えて、相続人全員が金庫を開ける場に立ち会うことが原則です。
そのため、貸金庫を開けたい場合は事前に銀行へ連絡し、訪問日に相続人全員で集まる必要があります。

しかし、被相続人の遺言によって「遺言執行者」が指定されており、その人に貸金庫を開ける権限を与えている場合は、遺言執行者が単独で貸金庫を開けることができます。
相続人が遠隔にいる場合や相続人同士の仲が悪い場合などは、相続人全員の同意が得られずに遺産分割が進まない可能性があります。相続手続きをスムーズに進めるためにも、貸金庫を借りている場合は遺言執行者を指定しておくをおすすめします。
ただし、せっかく書いた遺言を貸金庫に入れないように注意しましょう。貸金庫を開けるために残した遺言が、開けた後に見つかっても意味がありません。
遺言を作成した場合は、自宅で保管するか信頼できる身内に預けるなど、見つけてもらえるような工夫をしましょう。

貸金庫を開けるのに必要な書類

貸金庫を開けるためには、次の書類が必要となります。

・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑登録証明書
・貸金庫の鍵や利用カード
・貸金庫の届出印
・遺産分割協議を行った場合は遺産分割協議書

上記の必要書類は、貸金庫のある銀行によって異なる場合があります。必要書類については、事前に手続きをする銀行へお問い合わせください。

まとめ

今回は、遺産の調査の中で、主に預金取引経過の開示と貸金庫の調査についてご説明しました。
従来、預金取引経過の開示には共同相続人全員の同意がなければできず、調査に非協力的な相続人が1人でもいると、遺産分割がなかなか進まないケースも珍しくありませんでした。しかし、平成27年の最高裁の判決により、相続人1人でも預金取引経過の開示請求ができるようになっています。
また、貸金庫を開ける場合も相続人全員の同意と立ち合いが必要となりますが、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が単独で貸金庫を開けることができます。
遺産調査についての知識があると、単独の開示請求や遺言の作成を行って、スムーズな遺産分割を実現することができるのです。
生前のうちから相続に関する知識を身につけ、トラブルの少ない相続にしましょう。

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