■相続
2019/04/10
お墓、位牌、仏壇などの相続
この問題については明確に決まっていない家庭が多く、実際に多くの人が直面する問題でもあります。仏壇やお墓などの財産は「祭祀(さいし)財産」と呼ばれ、通常の相続財産とは異なった扱いがされます。
今回の記事では、祭祀財産に含まれる財産や相続する場合のポイントなどをご説明していきます。
祭祀財産とは
祭祀財産とは、神具や先祖を祀るために必要な道具のことを言い、家系図やお墓、仏壇仏具などがこれに含まれます。
一般的に、被相続人が亡くなって相続が始まると、被相続人の所有していた家や預貯金などの財産は相続人の間で分け合って相続されますが、祭祀財産は、通常の相続財産とは違って複数の相続人での共有ができません。一般的な相続財産のように相続人同士で分け合って相続すると、後々法要などの祭祀にまつわる儀式を行う際に不都合が生じてしまうからです。したがって、祭祀財産は特定の人が承継することになっています。
承継される祭祀財産は「系譜」「祭具」「墳墓」の3種類に分けられます。
系譜(けいふ)とは
系譜とは、先祖から子孫へ代々続いている血縁関係のつながりを記したものです。冊子や巻物などの形で残されている家系図や家系譜などがこれに該当します。
祭具(さいぐ)とは
祭具とは、祭祀や礼拝で用いられる道具のことです。宗教や宗派によっても異なりますが、仏像や位牌、仏壇、神棚などがこれにあたります。また、盆提灯、霊位、十字架、庭内神祠なども祭具です。
ただし、仏間については建物の一部ですので、祭具には含まれません。
墳墓(ふんぼ)とは
墳墓とは、被相続人の遺体や遺骨が葬られている設備のことです。お墓や霊屋、遺体を入れる棺、墓地がこれに該当します。
ただし、墓地については「墳墓と一体のものと捉えられる程度に切っても切れない関係にある範囲」と定義されており、あまりに広い土地は墓地として認められません。
祭祀財産は誰が相続するのか
一般的には、相続人の中から祭祀財産の承継者を選ぶことになりますが、承継者になるための資格は一切ありません。そのため、相続人や親族以外の第三者でも祭祀承継者になることができます。
祭祀承継者の選出方法は民法によって定められており、以下の3段階の方法に従って祭祀承継者を決めることになります。第1順位の方法で決まらなければ第2順位の方法で行い、それでも決まらなければ第3順位の方法で承継者を決めていきます。
第1順位 被相続人の指定
被相続人が祭祀財産の承継者について遺言に書き残している場合や、生前に口頭で指定していた場合は、指定された人が祭祀承継者となります。この方法は、被相続人の意思を受け継ぐことができ、スムーズな相続手続きの実現につながります。
第2順位 慣習
被相続人が遺言や口頭によって祭祀承継者を指定していない場合は、「慣習」に従って祭祀承継者を決定します。例えば、先祖代々長男が祭祀主宰者となっている家では、それに従って祭祀承継者を決めることになります。
しかし、何が慣習に当たるかは法律でも明確にされておらず、家の中での慣習と居住地域の慣習とで決め方が異なるケースもあります。このような場合は、相続人同士で話し合いをして決めることも可能です。
第3順位 家庭裁判所の審判
被相続人による指定がなく、家や地域の慣習によって決まらなかった場合は、家庭裁判所で祭祀承継者を決めてもらうことになります。手続きとしては、被相続人の親族が家庭裁判所に対して「祭祀承継者指定の申立て」をします。
申立てをされた家庭裁判所は、承継候補者と被相続人との関係や承継候補者の能力、他の相続人の意見などを総合的に考慮し、祭祀承継者としてふさわしい人を選出するのが一般的です。
祭祀財産を相続する際の注意点
祭祀財産を相続する際は、以下の点に注意しましょう。
注意点① 祭祀承継は拒否できない
被相続人による指定、慣習、家庭裁判所の審判によって祭祀承継者が決まった場合、選ばれた人はそれを拒否することができません。
一般的な相続では、相続放棄の手続きをすることで相続人としての地位を拒否することができますが、祭祀財産の相続には相続放棄のような制度はないからです。
しかし、祭祀承継者に選ばれたからといって祭祀にまつわる儀式を行う義務があるわけではありません。祭祀を開催しない判断や祭祀財産の処分は承継者の自由とされています。
注意点② 祭祀財産には相続税がかからない
祭祀財産は、預貯金や不動産などの一般的な相続財産とは異なった扱いがされるため、相続税の課税対象になりません。たとえ価値のある品物であったとしても祭祀財産であれば相続税がかからないため、相続税の節税対策に活用することもできます。
ただし、相続税のかからない祭祀財産の範囲は、被相続人の生前に購入されたものに限ります。
注意点③ 相続放棄をしても祭祀承継者になれる
相続放棄をすると、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったものとみなされるため、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続することができなくなります。
しかし、前述の通り祭祀財産は相続財産とは異なる扱いがされるため、相続とは違う形で承継されることから、相続放棄をしたとしても祭祀承継者になることができるのです。
注意点④ 祭祀承継者は相続で優先されない
祭祀承継者になると、受け継いだ墓地の維持管理費や祭祀料などの経済的な負担が伴います。このような費用は相続人間で特に決まりがない限り、祭祀承継者が支払うことになります。
また、祭祀承継者は祭祀を承継しそれに伴う費用を支払うからといって、他の相続人よりも多い取り分を相続することはできません。
ただし、祭祀承継者の負担が重くなり、祭祀の開催や維持管理などができなくなってしまう可能性がありますので、遺言や遺産分割協議などで祭祀承継者に有利な遺産分割を検討しましょう。
祭祀承継者の変更手続き
基本的には、一度祭祀承継者になると亡くなるまで祭祀承継者としての地位が存続します。しかし、何らかの理由があって祭祀承継者を続けることができなくなった場合は、生前に祭祀承継者の変更をすることが可能です。
変更する方法としては、当事者間の合意で行う方法と、家庭裁判所に祭祀承継者の指定を申し立てる方法の2つがあります。
家庭裁判所への申立ては、祭祀承継者でも親族でも行うことができますが、家庭裁判所に申し立てたからといって必ず祭祀承継者を変更できるとは限りません。祭祀承継者の変更には、変更すべき具体的な事情があることが必要だからです。
不明な点がある場合は、一度専門家へ相談してみましょう。
遺言書を活用して争族対策を
慣習や家庭裁判所の審判に従って祭祀承継者を決めることや、祭祀承継者に指定され祭祀財産の維持管理費を支払うことは、相続人や承継者にとって大きな負担となります。場合によっては、祭祀承継者の選出をめぐって相続人間で争いが発生してしまう可能性もあります。
そのようなトラブルを防ぐために「遺言による祭祀承継者の指定」をおすすめします。遺言による指定は祭祀承継者の選出方法の第1順位ですので、ほとんどの場合は遺言で指定された人が祭祀財産を承継することになります。そのため、残された相続人が祭祀承継者を決めるために話し合ったり、家庭裁判所に申し立てて決めてもらったりする必要がなくなり、円満で円滑な相続につながります。
遺言で祭祀承継者を指定する場合は、被相続人がもっとも信頼し、後を託すのにふさわしいと思っている人を選びましょう。また、遺言書の中での相続財産の配分においても他の相続人より取り分を多くすることで、祭祀承継者の経済的負担を和らげることもできます。残された家族が円満な相続を実現できるように、早めの対策を取っておくことをおすすめします。
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