■相続
2021/04/10
贈与について
「生前贈与をすると相続税を減らすことができる」と聞いたことがある方は多いと思います。平成27年の法改正により、相続税の対象となる方が増えたことから、贈与についての関心が高まりつつあるのが現状です。生前贈与は、相続税の大幅な節税だけでなく、自分の思い通りに財産を与えることができるという面でも非常に効果的です。
ただし、せっかく生前贈与を行なっても贈与税の仕組みを理解していなければ、かえって多くの税金を取られてしまう可能性があります。
今回は、生前贈与について、贈与税の仕組みや注意点などを詳しく説明していきます。
生前贈与とは
生前贈与とは、財産を持っている人が生きているうちにその財産を他人に贈与することです。贈与をする人を「贈与者」、贈与を受ける人を「受贈者」といいます。
なぜ、相続税の節税に生前贈与が活用されているのかというと、生前贈与をして生きているうちに自分の財産を他人にあげておくことで、相続財産の総額を減らすことができるからです。しかし、生前贈与を行うことで相続税を減らすことはできますが、代わりに贈与税が課税される可能性があります。
では、どのように贈与を行えば、相続税・贈与税ともに最小限に抑えることができるのでしょうか?
まずは、贈与税の仕組みについて確認していきましょう。
贈与税の仕組み
贈与税の課税制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。受贈者は、生前贈与を受ける際にどちらの制度を利用するかを選ぶことができます。
以下で、暦年課税と相続時精算課税についてそれぞれの特徴をご説明します。
① 暦年課税
暦年課税とは、簡単にいうと「年間110万円までの贈与には贈与税がかからない制度」です。1月1日〜12月31日までの1年間で受け取った財産の合計額が110万円以下であれば贈与税は課税されず、110万円を超える場合は、合計額から110万円を差し引いた額に対して贈与税が課税されます。つまり、毎年110万円以下の贈与し続けることで、その分だけ相続財産を減らすことができるのです。
暦年課税の利用に特別な手続きは必要ありませんが、受贈者が「相続時精算課税」を選択しない場合は、自動的に暦年課税を選択したことになります。
②相続時精算課税
相続時精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対して財産を贈与する場合に選択できる制度です。相続時精算課税を利用すると、2500万円までの贈与には贈与税がかからないため、一度に大きな額の贈与を実現することができます。ただし、この2500万円の非課税枠は一時的なもので、贈与税を大幅に削減できる代わりに相続税の課税対象となります。
例えば、20歳以上の孫が事業を始めるため、祖父が開業資金として2000万円を孫に贈与したケースで考えてみます。相続時精算課税を利用した場合、2000万円全額を無税で贈与することが可能です。しかし、贈与者である祖父が亡くなり相続が発生したとき、祖父の相続財産に贈与した2000万円を加えて相続財産を計算することになります。
なお、相続時精算課税を選択した後は暦年課税に戻すことができませんので、どちらを利用するべきか慎重に検討しましょう。
贈与税の特例
暦年贈与や相続時精算課税だけでなく、贈与税や相続税を削減できる特例は他にもあります。しかし、生前贈与の特例を活用するためには、その特例に合った要件を満たしている必要があるのです。
ここでは、様々な特例とその要件についてご紹介していきます。
特例① 住宅取得資金の贈与税非課税の特例
父母や祖父母から住宅の購入や新築・増改築のための費用を受け取った場合に、一定金額までを非課税とすることができる特例です。
この特例のメリットは、贈与者が亡くなる前3年以内の贈与であっても、相続財産に持ち戻されない点です。本来、贈与者が亡くなる前3年以内に贈与された財産は、相続財産に加えて相続税を計算しなければなりません。したがって、贈与税の対象とはならなくても相続税の対象となってしまうのです。しかし、住宅取得金の贈与税非課税の特例を利用してされた贈与に関しては、死亡前3年以内であっても相続財産に加える必要がありません。
この特例の非課税限度額は、一般住宅で300万円〜2500万円、省エネ等住宅で800万円〜3000万円ほどで、住宅の新築等にかかる契約日によっても異なります。
ただし、贈与された額を使いきれなかった場合は、その残額分に対して贈与税が課税されてしまいますので、贈与された額を全て使い切れるようにしっかりとした資金計画を立てておきましょう。
特例② 教育資金一括贈与制度
子や孫に教育のための資金を贈与する際、1500万円までは非課税で贈与をすることができる制度です。塾や習い事のための贈与であれば、500万円までが非課税となります。
この制度のメリットは、限度額までであれば何度贈与をしても贈与税がかからない点です。例えば、始めに800万円を贈与し、その後高校や大学入学の際に300万円、400万円と贈与を重ねても、その全額に税金はかかりません。
この制度を利用するための要件として、受贈者が30歳未満である必要があります。もし、教育資金一括贈与制度を利用して受け取った額を30歳までに使い切ることができなかった場合は、その残額分に対して贈与税が課税されてしまいますのでご注意ください。
特例③ 結婚・子育て資金一括贈与制度
子や孫の結婚・子育てのための資金を贈与する際、1000万円までは非課税で贈与することができる制度です。結婚式の資金であれば、300万円までが非課税となります。
この制度を利用するための要件として、受贈者は20歳以上50歳未満である必要があります。もし、結婚・子育て資金一括贈与制度を利用して受け取った額を50歳までに使いきることができなかった場合は、その残額分に対して贈与税が課税されてしまいますのでご注意ください。
生前贈与を行う際の注意点
生前贈与は相続税の節税対策として広く活用されていますが、活用の仕方を間違えると、かえって多くの税金が課せられてしまう可能性があります。
以下では、生前贈与を行う際の注意点を確認し、上手に節税をするためのコツをご紹介していきます。
注意点① 死亡前3年以内の贈与は相続税の対象となる
先ほどご説明した通り、贈与者の死亡前3年以内に贈与された財産は、贈与者が死亡した際に相続財産に加えなければならず、相続税の課税対象となってしまいます。これは、贈与者が亡くなる直前に、駆け込みで贈与をするのを防ぐためです。
住宅取得金の贈与税非課税の特例を利用した贈与の場合は、3年以内持ち戻しの対象とはなりませんが、それ以外の場合は持ち戻しの対象となってしまいます。そのため、特定の個人に贈与をしたい場合は、できるだけ早めに行いましょう。
特に、早い段階から暦年課税を利用して、毎年110万円以下の贈与を行うことで大幅な節税効果が期待できます。
注意点② 毎年同じ時期に同じ金額の贈与をするのは危険
これは暦年課税を利用する場合の注意点です。暦年課税で贈与をする場合、毎年決まった時期に同じ金額の贈与を続けてしまいがちです。実際に、非課税限度額の110万円を毎年忘れないように同じ時期に贈与する方法が一番効率的です。しかし、この方法は税務署から「最初からまとまった金額を贈与するつもりだった」とみなされてしまい、多額の贈与税が課せられてしまう可能性があります。
これを防ぐためのコツとして、「あえて少額の贈与税を支払う」方法があります。例えば、111万円の贈与をすると、非課税枠を超える1万円に対して1000円の贈与税が課せられます。このように、毎年少額でも贈与税を支払っておくことで、節税対策と疑われて多額の贈与税を請求されにくくなります。
注意点③ 暦年課税と相続時精算課税は併用できない
複数人から贈与を受ける場合、贈与の目的や金額などによって暦年課税と相続時精算課税を使い分けましょう。例えば、父からの贈与については相続時精算課税、祖父からの贈与については暦年課税を利用するなどです。このように、受贈者が同じ人でも贈与者が複数人いる場合は、贈与者ごとにどちらの制度を利用するか選択することができます。
しかし、同じ人からの贈与で暦年課税と相続時精算課税を併用することはできません。また、一度相続時精算課税を選択すると、それ以降の贈与を暦年課税に変更できなくなりますので、贈与を受ける際は自分に合った制度を慎重に選びましょう。
まとめ
今回は、生前贈与について、贈与の種類や注意点などをご説明しました。生前贈与は相続税の節税のために広く活用されていますが、上手に活用しなければかえって多くの税金がかかってしまう可能性があります。早い段階で贈与に関する知識を身につけ、損をしないような財産管理を目指しましょう。
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