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■遺言

2021/04/10

遺言がない場合の相続について

遺言の有無を確認する

遺言は被相続人(亡くなった人)が残した最後のメッセージです。遺言には主に「誰に、何を、どのくらい」相続させたいかについて書かれていますので、遺言があるかないかでは相続財産の分け方が大きく異なります。

そのため、相続手続きに入る前に、可能な限り早めに遺言の有無を調べる必要があります。

遺言は形式によって探し方や保管場所が異なりますので、どこを探すべきか確認していきましょう。


① 自筆証書遺言を探す

自筆証書遺言とは、遺言者が自分で手書きして作成した遺言です。自分一人で作成することができるため、自筆証書遺言は基本的に自分で保管します。机の引き出しや仏壇など、自宅の隅々まで探してみましょう。

なお、相続法の改正により、2020年7月10日から「法務局における自筆証書遺言の保管制度」がスタートしました。2020年7月10日以降に書かれた自筆証書遺言は法務局に保管されている可能性があります。相続人はどの法務局からでも自筆証書遺言が保管されているかを検索できますので、「遺言書保管事実証明書」の交付を請求して遺言の有無を確認しましょう。遺言があることが判明した場合は、有料で遺言の原本を閲覧することができます。

② 公正証書遺言を探す

公正証書遺言は、二人以上の証人が立ち合いのもと、公証役場で作成される遺言です。遺言の原本はそのまま公証役場に保管されます。

遺言者に交付される正本や謄本が自宅から見つかることもありますが、見つからない場合は、全国の公証役場で遺言の有無を検索することができます。遺言があることが判明した場合は、有料で公正証書遺言の原本を閲覧することができます。

③ 秘密証書遺言を探す

秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも知られることなく、遺言の存在だけを証明してもらう遺言方法です。存在の証明は公証役場で行われますので、公正証書遺言と同様に、全国の公証役場で遺言の有無を検索することができます。

遺言があっても無効になる場合

遺言は形式ごとに厳格な要件が定められています。遺言が見つかったとしても、その遺言が法律上有効なものでなければ、「遺言なし」という扱いになります。

例えば、自筆証書遺言の場合、財産目録以外の全文、日付、署名を自署しなければいけません。これをパソコンで作成していたり、他の人に代筆してもらったりした場合は無効と判断されてしまいます。

したがって、発見された遺言が有効かどうかは慎重に確認する必要があります。

遺言がない場合の相続手続き

遺言が見つからない、または見つかった遺言が無効だった場合は、次のような流れで相続手続きを進めていきます。



手順① 法定相続人の確定

法定相続人とは、民法で定められている相続人のことです。遺言がない場合は、相続人同士で遺産分割の話し合いをします。そのため、誰が相続人となるかを確定しておかなければいけません。

【法定相続人の範囲】

被相続人の配偶者は常に相続人となります。配偶者以外に相続人になるものとして、一定の範囲の血族が挙げられます。一定の範囲の血族とは、被相続人の子や父母、兄弟姉妹のことを言います。

また、配偶者以外の相続人には次の優先順位があり、上の順位の者がいない場合にのみ相続権が回ってきます。

1.子

2.直系尊属(父母、祖父母など)

3.兄弟姉妹

なお、被相続人よりも先に子が亡くなっていた場合は、子の子(孫)が相続人となります。兄弟姉妹の場合も同様で、被相続人よりも先に兄弟姉妹が亡くなった場合は、兄弟姉妹の子(甥、姪)が相続人となります。

【戸籍調査の方法】

法定相続人を確定するためには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍を順番にたどっていく必要があります。戸籍をたどることで、被相続人に隠し子がいたり、前妻との間に子供がいたりと、新たな相続人が明らかになることがよくあります。

戸籍謄本は当時の本籍地のある市区町村役場に申請して取得します。この作業を被相続人の死亡から順番にさかのぼり、出生まで行います。

被相続人が生涯同じ住所にいた場合は一通で済みますが、引越しや結婚などにより戸籍が移動している場合は、その分取得する戸籍が多くなります。

戸籍の調査によって、相続人になり得る人が明らかになったら、その相続人全員の戸籍も取得しましょう。相続人になり得る人がすでに亡くなっている可能性もあるからです。

手順② 相続財産の調査

法定相続人が確定したら、被相続人の相続財産の調査を行います。相続財産には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。

具体的に、プラスの財産やマイナスの財産には次のようなものがあります。

【プラスの財産】

・土地や家屋などの不動産

・不動産上の権利(借地権、借家権、抵当権など)

・預貯金や現金

・株式や社債などの有価証券

・動産(車、絵画、家具など)

・ゴルフ会員権

・知的財産権

【マイナスの財産】

・借金(借入金、未払金、小切手など)

・保証債務、連帯債務

・税金(未払いの所得税、住民税、固定資産税など)



このほかにも様々な財産が存在しますので、隅々まで漏れなく調査しましょう。

手順③単純承認・限定承認・相続放棄を決める

相続人は、被相続人の財産状況を確認して、相続するかしないかを決めることができます。相続の方法には単純承認・限定承認・相続放棄の三つがあり、それぞれ以下に説明します。

【単純承認】

単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も相続することです。

例えば、被相続人にプラスの財産が1000万円、マイナスの財産が2000万円ある場合、単純承認をした相続人は1000万円の財産を受け取ることができますが、2000万円の借金も引き受けなければいけません。

【限定承認】

限定承認とは、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続することです。マイナスの財産が多いが、手元に残したい不動産がある場合などに利用されます。

一見便利な方法のように思われがちですが、相続人全員で限定承認を行う必要があるため、ほとんど利用されていません。

【相続放棄】

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続しないことです。財産を相続したくない場合や、マイナスの財産の方が明らかに多い場合に利用されます。

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになりますので、後から新しく財産が見つかったとしても相続することができません。

手順④遺産分割の話し合いをする

遺言がない場合は、「誰が、何を、どのくらい相続するか」を話し合いで決めます。この話し合いのことを遺産分割協議といい、相続人全員の同意がなければ協議は成立しません。

逆に、相続人全員の同意があれば、特定の相続人に全ての財産を相続させるような分け方も可能です。

また、協議のために全員が同じ場所に集まるのは難しいので、電話での参加も可能です。

遺産分割協議で話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には協議の具体的な内容を記載しておき、後で争いが起こらないようにしましょう。



遺産分割協議で話しがまとまらなかった場合は、以下の手続きが必要です。

【遺産分割調停】

遺産分割協議で争いが発生した場合や、協力的でない相続人がいる場合は、家庭裁判所に対して「遺産分割調停」を申し立てることができます。調査では、調停委員が間に入って進めてくれるので、話し合いがまとまりやすくなります。

【遺産分割審判】

調停でも話しがまとまらなかった場合は、審判の手続きが行われます。遺産分割協議と遺産分割調停では相続人同士の話し合いを行いますが、遺産分割審判は話し合いではありません。

これまでの話し合いの内容をもとに、裁判官が遺産の分割方法を決定することになります。

裁判所の審判には強制力があるため、相続人は必ず審判に従わなければなりません。

手順⑤遺産分割協議の内容を実現する

遺産分割の内容が決まったら、その内容を実現するために不動産の相続登記や銀行口座の名義変更、株式の名義変更などを行います。遺産分割協議書は、これらの手続きを行う際に必要な書類の一つです。

手順⑥相続税の申告と納付

相続税の基礎控除額を超える額を相続した場合は、相続税の申告と納付をしなければいけません。相続税の基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の人数)で求めることができます。

例えば、法定相続人が3人の場合の基礎控除額は、3000万円+(600万円×3人)=4800万円となります。

自分の取得した相続財産がこの金額を超えていたら、相続税の申告と超過分に応じた相続税の納付をします。なお、申告期限は相続開始を知ってから10ヶ月以内です。


遺言がない相続の注意点

遺言がある場合の相続は、遺言者の気持ちや相続人の事情を考慮して遺産分割を指定していることが多く、円満でスムーズな相続手続きが実現できます。

しかし、遺言がない相続では遺産分割を相続人だけで決めることになります。普段は親しくしていても、相続の場面ではそうはいきません。それぞれの主張が通らなければ争いになってしまうこともあります。

したがって、遺言がない相続では遺産分割協議を慎重に行うよう心がけましょう。

遺言がない相続のトラブル

遺言は、相続対策の最も有効な方法です。遺言がない場合の相続は何かとトラブルが多く、争いに発展してしまうケースも珍しくありません。

遺言がなくトラブルに発展してしまうケースには、例えば次のようなことが考えられます。

トラブル① 住んでいた家を特定の人に相続させたい

子供のいない夫婦の夫が亡くなった場合、当然住んでいた家は妻が相続すると思われがちです。しかし、遺言がない場合には、必ずしも妻が家を相続できるとは限りません。もし、夫の相続人である父母や兄弟姉妹が遺産の分割を要求してくれば、妻は相続財産の家を売らなければならなくなる可能性もあります。

トラブル② 連絡の取れない相続人がいる

相続人の中に連絡の取れない人がいる場合、その人を無視して遺産分割協議を進めることはできません。そのままではいつまで経っても協議が成立しませんので、不在者財産管理人の選任や失踪宣告を行って対処する必要があります。

連絡の取れない相続人がいると、手続きが一つ増えるため、遺産分割が遅れる原因になります。

トラブル③ 生前に被相続人の介護をしていた

遺言がない場合、遺産分割協議の場で被相続人の介護をしていたことを理由に取り分を増やしてほしいと主張しても、納得してもらえない可能性があります。

遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ成立しませんので、協議が長引いて争いに発展してしまった場合には、取り分を増やすことは難しくなります。

まとめ

遺言がない相続では、「誰が、何を、どのくらい相続するか」を相続人の話し合いで決めなければいけません。この遺産分割協議は家族の関係を悪化させることにつながりますので、冷静かつ慎重に進めていく必要があります。

家族や親戚間に争いの火種を作らないためにも、あらかじめ遺言を残しておくことをおすすめします。

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