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■相続

2019/04/10

相続人が行方不明者の場合の相続

相続が発生して相続人の調査をしてみると、相続人の中に行方不明の人がいるケースがあります。相続手続きの中には相続人全員で行わなければならないものもあるため、行方不明の相続人がいると相続手続きが滞ってしまいます。
では、行方不明の相続人がいる場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。

今回は、行方不明と判断される基準や、行方不明の相続人がいる場合の手続きについて説明していきます。


行方不明の相続人がいる場合の遺産分割協議

遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった方)の財産について「誰が、何を、どのくらい相続するか」を話し合うことです。この話し合いは、相続人全員で行わなければなりません。そのため、相続人の中に行方不明者がいると、相続人全員で集まることができず、遺産分割協議を成立させることができないのです。
このような場合は、家庭裁判所で手続きをすることによって遺産分割協議を成立させることができます。

行方不明者となるケース

行方不明にも2つのケースがあります。
どちらのケースに該当するかによって手続きも異なってきますので、まずは行方不明にはどのようなケースがあるのかを知っておきましょう。

ケース① 生きているがどこにいるか分からない

生きているのはわかっているが、どこにいるか分からない場合は、行方不明者として扱われます。
例えば、たまに連絡があるが、戸籍の附票に記載されている住所地を訪ねてみても見つからない場合や、家を出たきり音信不通になってしまった場合などです。
このようなケースでは、行方不明者の代わりに財産を管理する「不在者財産管理人」を選出します。不在者財産管理人の手続きについては後述します。

ケース② 生きているか分からない

そもそも生きているかどうか分からない場合は行方不明者として扱われます。
例えば、何年も前に家を出たきり連絡がなく消息も不明である場合や、事故や災害に巻き込まれて亡くなった可能性が高い場合などがこれに当たります。
このようなケースでは、家庭裁判所で「失踪宣告」の申立てを行い、行方不明者を死亡したものとみなします。そうすることで、遺産分割協議を行方不明者以外の相続人で行うことができるようになるからです。失踪宣告の手続きについては後述します。

不在者財産管理人の選任

行方不明者が生きているのはわかっているが、どこにいるかが分からない場合は「不在者財産管理人」を選任する必要があります。

不在者財産管理人とは

不在者財産管理人とは、行方不明の相続人に代わって相続財産の管理をする人です。その他にも、家庭裁判所から許可を得ることで、行方不明者の代わりに遺産分割協議や不動産の売却なども行うことができます。

不在者財産管理人選任の手続き

不在者財産管理人を選任するためには、他の相続人や利害関係者が家庭裁判所に対して「不在者財産管理人選任の申立書」を提出します。申立先は、行方不明者が住んでいた地域を管轄する家庭裁判所です。
申立てに必要な書類は以下の通りです。

【不在者財産管理人選任の申立てに必要な書類】

・申立書

・行方不明者の戸籍謄本と戸籍附票

・財産管理人候補者の住民票または戸籍附票

・行方不明の事実を証明する資料

・行方不明者の財産に関する資料

家庭裁判所は申立書と添付書類を確認し、事情を総合的に考慮した上で不在者財産管理人を選任します。
なお、遺産分割協議を行う他の相続人を不在者財産管理人に指定することはできません。業務をスムーズに行うことができるという点で、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。


不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには

不在者財産管理人は基本的に、行方不明者の財産管理のみを行います。遺産分割協議へ参加するためには、家庭裁判所に対して「権限外行為の許可」を申請しなければなりません。

不在者財産管理人選任の注意点

不在者財産管理人を選任することで、遺産分割協議を成立させることができますが、以下のような注意点があります。

・不在者に不利な内容の遺産分割ができない

不在者財産管理人は行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加します。

そのため、行方不明者の不利益となるような遺産分割では、家庭裁判所の許可がおりません。少なくとも、行方不明者の法定相続分は下回らないような遺産分割にしましょう。

・不在者財産管理人に報酬が発生する
不在者財産管理人は、財産の管理や遺産分割協議への参加など、面倒な職務をこなさなければなりません。
そのため、家庭裁判所へ請求することにより行方不明者の財産の一部から報酬を受け取ることが認められる可能性があります。弁護士や司法書士に依頼する場合は、あらかじめ報酬の確認をしておくと良いでしょう。

失踪宣告の申立て

行方不明者が生きているかどうか分からない場合は「失踪宣告の申立て」を行う必要があります。

失踪宣告とは

失踪宣告とは、災害や遭難などによって行方不明者の生死が7年間明らかでないときに、その人を法律上死亡したものとみなすことを言います。
失踪宣告がされると、失踪者についての相続が開始され、失踪者が婚姻している場合はその婚姻関係が解消されます。

普通失踪と危難失踪

失踪には、「普通失踪」と「危難失踪」の2種類があります。
行方不明者の生死が7年間明らかでない時は普通失踪になりますが、行方不明者が戦地に臨んだ・沈没した船に乗っていたなどの危難に遭遇した後1年間生死が不明である場合には危難失踪となります。

失踪宣告申立ての手続き

失踪宣告は、他の相続人や利害関係者が家庭裁判所に対して「失踪宣告の申立て」をして行います。申立先は、不在者財産管理人の選任と同様、行方不明者が住んでいた地域を管轄する家庭裁判所です。
申立てに必要な書類は以下の通りです。

【失踪宣告の申立てに必要な書類】

・申立書

・行方不明者の戸籍謄本と戸籍附票

・失踪したことを証明する資料

・申立人の利害関係を証明する資料

申立てをすると、申立人や行方不明者の親族に対して家庭裁判所による調査が行われます。その後、家庭裁判所は3ヶ月以上の期間を定めて「不在者捜索の公告」を官公や掲示板に掲載し、期間内に届出がなかった場合に、失踪の宣告がされます。
そのため、申立てをしてから失踪宣告がされるまで、半年〜1年半ほどかかります。


失踪宣告の注意点

失踪が宣告されることで行方不明者を死亡したものとみなし、遺産分割協議を成立させることができますが、以下のような注意点があります。

・相続税の申告期限に間に合わない可能性がある

失踪宣告の申立てから失踪が宣告されるまで、半年〜1年半ほどの時間がかかるため、相続税の申告期限(被相続人が亡くなってから10ヶ月以内)に間に合わない可能性があります。
そのような場合は、失踪宣告がされるまでの間に不在者財産管理人を選任して、相続税の申告期限までに申告をしておく方法があります。

・行方不明者が現れた場合

遺産分割協議の成立後に、失踪宣告がされた行方不明者が現れた場合は、失踪宣告を取り消すことができます。失踪宣告の取消しは、家庭裁判所に対して「失踪宣告の取消し」の審判を申し立てて行います。
失踪宣告が取り消されたとしても、すでに行った遺産分割は取り消されません。行方不明者以外の相続人で行った遺産分割で受け取った財産が残っている場合は、その範囲内で行方不明者に財産を返す必要があります。

・行方不明者自身の相続も発生する

失踪宣告がされると、行方不明者は法律上死亡したことになります。そのため、行方不明者自身にも相続が発生するのです。
行方不明者が他の相続の相続人でもある場合は、2回分の相続手続きを行わなければならず、手続きが複雑になる可能性があります。

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