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■お役立ちコラム特集

2021/06/25

取得費加算で相続税を軽減!適用条件や特例利用時の注意点

相続で取得した不動産や株式等を売却した場合、売却益に応じて所得税・住民税を支払わなければなりません。
不動産や株式の売却で得られた利益は数千万以上になることも多く、税額は数百万円以上の高額になることが予想されるでしょう。
その際に利用したいのが「相続税額の取得費加算の特例」です。
本記事では、相続税額の取得費加算の特例の概要や計算方法、注意点等を紹介します。

相続税額の取得費加算の特例とは


相続税額の取得費加算の特例とは、相続で取得した土地や建物、株式等を一定期間内に譲渡すれば、相続税額の内一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる仕組みのことです。
譲渡資産の取得費が増えることで、譲渡所得税の軽減が期待できます。

つまり、相続した不動産等を一定期間内に譲渡すれば、譲渡所得税が一定額減額できるということです。

不動産売却時の譲渡所得税とは


譲渡所得とは所有している土地や建物、株式、貴金属等を売って得た利益のことであり、所得税・住民税の課税対象です。
そして不動産を売却して出た譲渡所得に対する所得税や住民税は給与所得や事業所得等他の所得とは切り離して計算されます。
これを分離課税というのです。

譲渡所得は単に「不動産の売却価格全額」というわけではなく、売買時にかかった費用も加味して以下の計算式で算出されます。

譲渡所得
=収入金額-取得費-譲渡費用

取得費とは、不動産を入手した時にかかった費用のことです。基本的な取得費の例としては、以下が挙げられます。

・ 土地・建物の購入代金や建築代金
・ 不動産購入時にかかった税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税等)
・ 不動産仲介手数料
・ 測量費や整地費、建物解体費等
・ 設備費や改良費
・ 借入金利子

そして相続した不動産を一定期間の間に売却することで、相続税額を像と所得計算時の取得費に計上することが可能です。

譲渡所得の計算式を見て分かる通り、取得費が増えるほどマイナスが大きくなるため、譲渡所得は減少します。
そして譲渡所得が減少することで、そこにかかる所得税・住民税額も低くなるというわけです。

相続税額の取得費加算の特例の計算方法


相続税額の取得費加算の特例の計算方法は、以下の通りです。

・ 取得費に加算できる相続税額
=譲渡した人の納付すべき相続税額×譲渡資産の相続税の課税価格/債務控除前のその人の相続税の課税価格

上記は譲渡した財産ごとに計算します。
また、算出した額が特例を適用しないで計算した譲渡益を超える場合は、その譲渡益相当額が取得費に加算する金額になります。

相続税額の取得費加算の特例適用時の計算例


計算式を確認しても、なかなか具体的なイメージがつきにくいという方は多いことでしょう。
そのためここでは、実際の数字を当てはめた特例適用時の計算例を紹介します。

<条件>
・ 被相続人:父親
・ 相続人:長男のみ
・ 相続財産:1億5,000万円
・ 譲渡資産の課税価格:6,000万円
・ 相続税額:2,300万円
・ 土地の売却金額:5,000万円
・ 土地の購入金額:2,500万円(10年前購入)
・ 売却にかかる仲介手数料:150万円

取得費に加算する相続税額
=2,300万円×6,000万円÷1億5,000万円
=920万円

譲渡所得金額
=5,000万円-(2,500万円+920万円+150万円)
=1,430万円

所得税額
=1,430万円×15.315%(所有期間が5年超の長期譲渡所得のため)
=219万45円

住民税額
=1430万円×5%(所有期間が5年超の長期譲渡所得のため)
=71万5,000円

上記のケースでは、最終的に算出された所得税219万45円と住民税71万5,000円の合計290万5,045円が税負担になります。

相続税額の取得費加算の特例適用条件


相続税額の取得費加算の特例を適用するには、以下3つの条件を満たす必要があります。

・ 相続・遺贈によって取得した財産であること
・ 相続時に相続税が課されて、納税済みであること
・ 相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に売却していること

本特例は相続税が発生していることが前提となるため、相続税非課税だった場合は適用できません。
そして被相続人が亡くなった日から3年10ヶ月以内に譲渡していることが条件になるため、覚えておきましょう。

国税庁がより詳細なチェックシートを用意していますので、ぜひ活用しましょう。
→令和元年分用チェックシートはこちら

相続税額の取得費加算の特例利用時の注意点


相続税額の取得費加算の計算方法や適用条件を理解したら、今度は特例適用にあたって注意しておきたいポイントを押さえておきましょう。
知らないままだと適用ができない可能性もありますので、注意が必要です。

特例の申請には確定申告が必要


特例を申請するには、毎年の確定申告で申告することが大切です。
具体的には、不動産等を売却した翌年の確定申告の時期に申告します。
例えば令和3年1月1日~12月31日の間に不動産を売却した場合は、令和4年の確定申告期間(基本的には2月15日~3月15日)に申告します。

確定申告には、以下の書類を揃える必要があります。

・ 相続税申告書の写し
・ 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
・ 譲渡所得の内訳書
(土地・建物の譲渡の場合)確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】
(株式の譲渡の場合)株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書

相続税の計算明細書と譲渡所得の内訳書は国税庁HPから入手可能です。

遺産分割協議を期限までに終わらせる


特例を適用させるためには、遺産分割協議を期限までに終わらせておく必要があります。
遺産分割協議がまとまらないまま3年10ヶ月が過ぎてしまうと、申請権が無くなってしまうため注意しましょう。

代償分割を選択すると不利になることも


代償分割とは、相続人の1人が不動産を取得する代償として他の相続人に現金を支払う遺産分割方法です。
代償分割を活用することで遺産分割協議が円滑に進むことも多いのですが、特例の加算取得額を算出するにあたっては不利に働くこともあるため注意しましょう。

もし、相続税額の取得費加算の特例を利用しようと考えているのであれば、代償分割は選択しないことが賢明です。

相続財産はいつ売却すべき?


今回紹介した特例は相続後に売却を検討するのであれば活用したいものです。
しかしそもそも被相続人が生存中に相続に関する話し合いができるのであれば、生前に売却するのか相続開始後に売却するのかを検討する余地があるでしょう。

以下でご紹介するメリット・デメリットを精査し、どちらが最適なのかチェックしてみてください。

被相続人の生前に売却するメリット・デメリット


<メリット>
・ 現金に換えられるため、遺産分割が平等になり争いが減る
・ 資金を事前に準備できる
・ (建物なら)築浅物件の方が売れやすい
・ 相続人の手間が減る

<デメリット>
・ 不動産として所有している方が相続税評価額は低くなりやすい(節税になる)
・ 土地や建物の所有期間が5年以下だと、所得税率が高くなる

相続開始前に生前に売却するメリット・デメリット


<メリット> ・ 通常は現金よりも不動産の方が、相続税評価額は低くなる
・ 取得費加算の特例が活用できる
・ 所有期間が5年超になるまで待つことができる(所得・住民税が抑えられる)
・ 小規模宅地等の特例が受けられる可能性がある

<デメリット>
・ 不動産は遺産分割しにくく、争いにつながる可能性がある
・ 不動産を共有名義で相続すると、トラブルが発生しやすくなる
・ 築古になる等売るタイミングが難しくなる
・ 相続人の手間が増える

取得費加算の特例を活用して節税につなげよう


相続した不動産や株式を売却した場合、負担すべき所得税・住民税を算出する際に取得費加算の特例を適用できる可能性があります。
相続税の課税額によって所得税・住民税を大きく減らすことが期待できますので、有効活用しましょう。
ただし、適用にはいくつかの条件があります。
条件から外れないように注意しながら、計画的に節税を進めていくことが大切です。




はじめての相続編集部


情報提供と専門家マッチングで円滑な相続税の手続きをサポートすることをミッションに掲げた、マッチングWebメディア「はじめての相続」の編集部です
出版社が運営していることが強みで、「利用者目線」と「わかりやすさ」を心掛けて相続に関する記事を発信しております。
子育て中のママや学生など、様々なバックグラウンドを持つメンバーが所属しています。

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